- ポータルサイトを見ていたら安い物件があり「借地権」と書いてあった。
- 「相続した土地に借地権が設定されているけど何のこと?」
- 借地権を調べてみたけど、難しすぎてわからない。

借地権とは不動産契約の一種です。一言に借地権といっても、種類や契約期間が異なるため普段不動産取引をしない人にとってはややこしいものです。
本記事では借地権とは?という基本から、メリット・デメリット・種類まで、図解も交えながらわかりやすく解説しています。
借地権は法律の話なのですべてを理解しようとすると非常に複雑です。
混乱しないように自分に当てはまる部分だけを覚えるようにしましょう。
記事監修者情報

株式会社グランクルー 代表取締役 加瀬 健史(カセ タケシ)
不動産業界歴20年以上・宅地建物取引士
不動産のプロでも敬遠しがちな借地権取引の実績100件以上。借地権の売買や更新料の相談・借地トラブルまで幅広く対応し借地取引に多くの知見を持つ。世田谷の借地権に特化したメディア「教えて世田谷不動産」運営。詳細はプロフィールをご覧ください。
借地権とは?
借地権とは、借地借家法上の概念で「建物の所有を目的とする”地上権”又は”土地の賃借権”を指します。(借地借家法 第一章 総則 第二条)
かみ砕いた表現に置き換えると、建物を建てるために土地を所有する第三者から借りる権利です。
※建物を建てずに借りる場合は借地権を設定することができません。

借地権の存続期間は数年から数十年にわたるものが多く、存続期間が満了した場合には土地を返却する必要があり、毎年もしくは毎月土地の使用料(地代)を支払うことでを使用する権利を得ることができます。
ただしあくまでも土地の所有者は地主のため、借地に立てた建物を売却する際などには地主の許可が必要です。
Q.どのような場合に借地権を設定する必要があるの?

マイホームを建てたい!土地がないから誰かに借りよう・・
上記のようなケースで第三者から土地を借り、建物を建てて居住する場合に借地権を設定する必要があります。



難しく感じるかもしれませんが、アパートやマンションを借りたら、家賃を支払う、契約が終わったら退去。というマンションの賃貸借契約仕組みと一緒です。
地上権・貸借権の違い(あまり覚えなくてOK)
借地権には「地上権」「貸借権」がありますが、いずれも”土地を借りて建物を建てる”という意味では一緒ですが、契約締結書面や契約内容に大きな違いがあります。
借地権 | ||
地上権 | 賃借権 | |
権利形態 | 物権*1 | 債権*2 |
締結書面 | 地上権設定契約書 | 土地賃貸借契約書 |
存続期間 | 地主との取り決め | 最低30年以上 |
地代 | あり | |
増改築・譲渡・転貸 | 自由に行える | 地主の承諾が必要 |
登記 | 地主に登記義務あり | なし |
抵当権の設定 | できる | できない |
- 物権:物に対する直接的に支配する権利
- 債権:特定の人に対して一定の行為を請求できる権利
マイホーム(戸建て)のために土地を借りるということであれば、「地主に対して土地を貸してください」と請求する「賃借権(債権)」となりますので、地上権は無視していただいて問題ありません。
借地権設定者と借地人を理解しよう
借地権では土地を貸す地主のことを「借地権設定者」、借りる人を「借地人」と呼びます。
土地を所有し貸し出す(地主) | 借地権設定者(しゃくちけんせっていしゃ) |
土地を借りる | 借地人(しゃくちにん) |
借地権設定者である地主は、資産家である個人や寺院、国やUR(独立行政法人都市再生機構)などが多く、使用していない土地や余っている土地を有効活用するために貸し出します。
- 借地権は第三者から土地を借りて建物を建てること
- 土地を借りる代わりに地代を支払う(毎月もしくは毎月)
- 借地権が設定されている物件を売却する際には地主の承諾が必要
旧法借地権(借地法)と新法借地権(借地借家法)
借地権には「旧法借地権(借地法)」と「新法借地権(借地借家法)」があります。
新法借地権(借地借家法)は平成4年(1992年)8月1日に施行された法律で、それ以前に締結された契約には旧法借地権(借地法)が適用されています、
借地法(旧法)は借りる側、つまり借地人が有利な制度となっており、更新期間が満了しても地主側(借地権設定者側)から更新を拒絶できないようになっていました。
これにより、土地の返還を拒絶されてしまい返還されない・・。などの問題が発生。
地主側は土地を有効活用できずに泣き寝入りするといったケースが発生してきたため、1992年に新法借地権(借地借家法)が施工されました。※新法借地権(借地借家法)施行後に旧法の新規適応は廃止



旧法借地権では「一度貸したら一生返還されない」とまで言われていました。


借地借家法で柔軟な貸し出しができるようになった
旧法借地権(借地法)と新法借地権(借地借家法)の一番の違いは「定期借地権」にあります。
詳細は後述しますが、新法の「定期借地権」では存続期間が定められており、法定更新もないため、期間満了したら必ず地主に返還する義務があります。
定期借地権によって、これまで土地を貸すことに不安を持っていた地主も安心して土地を貸し出すことができるようになりました。
借地権の種類や用途・契約期間
ここからが難しくなります。
借地権は「①旧法借地権」「②普通借地権」「③定期借地権」に分類することができます。


①旧法借地権(借地法)
旧法借地権では堅固建物(鉄骨造、鉄筋コンクリート造)と非堅固な建物(木造)で契約期間が異なります。
(コンクリート・鉄骨・鉄筋など) | 堅固建物(木造) | 非堅固建物|
存続期間 | 30年以上 | 20年以上 |
法定更新 | 30年 | 20年 |
終了 | 建物の老朽化や正当事由 | 建物の老朽化や正当事由 |
旧法借地権では建物の老朽化や正当事由によって終了するとありますが、実際のところは建物が老朽化しようと借地権自体は消滅しません。そのため建物を再建築するを前提となっていました。
上記のように旧法借地権は、借地人側の権利が過剰に保護されている点が大きな特徴です。
旧法借地権は平成4年7月31日までに締結された契約に適用されています。(以降は借地借家法が適用)
借地借家法が施行されてから30年が経過しますが、いまだに多くの契約で旧法借地権が適用されています。
②普通借地権(借地借家法)
普通借地権 | |
存続期間 | 30年以上 |
法定更新 | 1回目20年 2回目から10年 |
終了 | 建物の老朽化や正当事由 |
普通借地権は旧法借地権に似た権利です。ただし以下の点が旧法と大きく異なります。
- 種別(木造・RC造)といった概念がなくなった。
- 地主都合の契約解除も認められるようになった
もともと過剰に保護されていた借地人ですが、借地借家法の普通借地権では、地主都合の契約解除も認めるようになったため、より柔軟な運用が可能となりました。



新法借地権では「地主に優しくなった」と認識してください。
ちなみに旧法借地権から新法借地権に自動的に切り替わることはありません。旧法から新法への切り替えには両者の合意(旧法の解除および新法での契約)が必要となりますが、借地人が不利になる新法に切り替えることが少ないのが現状です。



新法に切り替えてほしいな・・



旧法のほうが有利だから、新法に切り替えたくないな・・
③定期借地権(借地借家法)
定期借地権は文字通り、定められた期間中土地を貸し出す契約ですが、定期借地権には「一般」「建物付き譲渡特約付き」「事業用」の3つの種類があります。
定期借地権 | |||
① 一般 | ② 建物譲渡特約付き | ③ 事業用 | |
期間 | 50年以上 | 30年以上 | 10年以上50年未満 |
契約方式 | 書面 (公正証書以外も可) | 定めなし (建物譲渡特約の締結) | 公正証書 |
利用目的 | 制限なし | 制限なし | 事業用 |
終了時の措置 | 更地返還 | 建物は貸主に譲渡 ・借地人が継続して建物を使用する場合、以後借家人になる | 更地返還 |
更新 | なし | なし | なし |
更新後の期間 | – | – | – |
普通借地権は更新が原則となっているため、借地人(借りる側)が有利となりますが、定期借地権の場合、事前に契約期間が定められており、なおかつ更新がないため、借地権設定人(貸す側)に有利な法律となります。



定期借地権は主に事業用に設定されることが多いです。居住用であれば旧法借地権および普通借地権だと認識していただければOKです。
- 旧法借地権は借主に有利すぎる契約内容だったため、地主が安心して貸し出せなかった
- 1992年8月に施行された借地借家法で、地主も安心して契約できるようになった
- 借地権には「①旧法借地権」「②普通借地権」「③定期借地権」の3種類がある
- 「旧法借地権」から「(新法)普通借地権」へ自動的に切り替わることはない
- いまだに「旧法借地権」が適用されている契約がたくさんある
借地権の更新料について
借地権には更新という考え方があります。例えば旧借地権で契約すると、30年ごとに法定更新が行われます。
借家契約においては、契約当事者が、一定期間前に、契約を更新しない旨または条件を変更しなければ契約更新しない旨の通知をしない場合には、従前の契約と同一の条件で契約を更新したとみなされるが、これが法定更新である。このとき、更新後の契約期間は定めがないものとされる。
https://smtrc.jp/useful/glossary/detail/n/2364
更新料は法律によって定められているものではないため、借地人と地主(借地権設定者)との合意のもと「支払いの有無」「支払い金額」が決定します。
更新料の相場ですが、これは地主(借地権設定者)によって異なるので、契約内容を確認するのが間違いありません。



更新料が高くて売却を検討する方も少なくありません。
借地権のメリット
ここからは借地権付きの物件を売買する際のメリット・デメリットをご紹介していきます。
物件の購入価格が安い
借地権付きの物件の一番のメリットは物件価格が安いことです。
借地権つきの物件は、土地込みの建物(所有権物件)と比較すると70%~80%程度で販売されていることが多いです。
一般的に戸建てを購入する際には「土地代+建物代」が掛かりますが、借地の場合だと「建物代」だけで居住することができます。(別途:地代の支払いが必要)
借地は人気の高い一等地であることが多いので、借地権付きの物件であれば安く居住することができます。
固定資産税などの支払いがない
土地を所有している場合、固定資産税や都市計画税を支払う必要がありますが、借地の場合だとこれらの税金を払う必要がありません。
更新すれば半永久的に利用することが可能
借地法および借地借家法では借地人は手厚く保護されており、望めば更新することが可能です。地主都合の契約解除の場合にも正当事由が必要なため、更新し続けることで半永久的な利用が可能となります。(定期借地の場合は除く)
そのため、祖父母の代から土地を借り続けているということケースも珍しくありません。



所有権こそないものの、ずっと住み続ける分には借地であるデメリットを感じることはほぼないと言えるでしょう。
借地権のデメリット
借地権は「建物は自分のもの。土地は他人のもの」という性質上、さまざまな制約が発生します。


地代や承諾料の支払う必要がある
土地を借り続けるためには、地主に地代を支払う必要があります。(支払いは毎月もしくは毎年)
地代は、住宅・店舗など利用用途によって異なりますが、以下が地代の相場となります。
借地権上の建物用途 | 借地料の相場 |
居住用(住宅) | 土地価格の2~3% |
事業用(店舗) | 土地価格の4~5% |
また不動産の増改築や売却する際には、地主の承諾が必要となり、承諾料を支払う必要があります。



地代や承諾料は借りている土地ならではの決まり事ですね。
購入時に住宅ローンが組めない可能性がある
物件を購入する際には、住宅ローンを組んで購入する方がほとんどです。しかし借地権付きの物件だと、抵当権を設定することができないため住宅ローンが組めない場合もあります。
抵当権とは?
住宅ローンなどで金融機関からお金を借りる人が「土地」や「建物」を担保とし、万が一返済が滞った場合、担保した土地や建物をもって弁済を受ける権利のこと。
借地の場合は土地は”借り物”なので、担保とすることはできません。また建物を担保にした場合でも、土地が借り物のため担保評価が低くなる傾向があります。
ただし絶対にローンが組めないというわけではないので、まずは借地権取引に長けた不動産会社に相談してみることをおすすめします。
期間満了後は更地にして返還する必要がある。
借地権では基本的に建てた建物を壊して、更地にして返還する必要があります。(その際の解体費用も借地人負担)
借地権の中には 建物譲渡特約付き借地権といって、建物を買い取ってもらう前提の契約も存在します。
- 借地の場合、更新料という考え方がある。
- 更新料は法律で定められたものではないため、貸主・借主両者の合意のもと決定する
- 借地権のメリットは「価格が安い」「固定資産税の支払いがない」
- デメリットは「地代の支払い」「売却の際には地主の承諾書が必要」「住宅が組めない可能性がある」「更地返還」
自分はどの借地権に関係するのか把握しよう
ここまで長く借地権を解説いたしました。冒頭申し上げたように、借地権は非常に複雑なので自分に関わる領域を把握することが重要です。
最後に3問でわかるチェック項目を用意しましたので参考に”自分に関係のある情報”を把握してください。
- 1992年7月31日までに締結された契約 or 1992年8月以降に締結された契約
- 旧借地権 or 普通借地権 or 定期借地権
- 地上権 or 賃借権
住宅用であれば、1992年7月31日以前に契約された旧借地権(賃貸件)であることが多いです。
また、これから借地権付きの物件を購入する方は借地借家法の普通借地権が適用されることが多いです。(事業用を除く)
まとめ
最後に簡単に借地権の概要とメリットデメリットをまとめます。
- 借地権は他人の土地を借りて建物を建てる権利
- 借地人は毎年(毎月)、地主に地代を収める必要がある
- 借地権には「旧法借地権」「普通借地権」「定期借地権」の3種類がある
- 昔から契約している借地権の多くは「旧法借地権」を更新しているもの
記事監修者情報


株式会社グランクルー 代表取締役 加瀬 健史(カセ タケシ)
不動産業界歴20年以上・宅地建物取引士
不動産のプロでも敬遠しがちな借地権取引の実績100件以上。借地権の売買や更新料の相談・借地トラブルまで幅広く対応し借地取引に多くの知見を持つ。世田谷の借地権に特化したメディア「教えて世田谷不動産」運営。詳細はプロフィールをご覧ください。