- 借地人・借地権設定者って何?
- それぞれどんな立場や権利を持ってるの?
- 借地人・借地権設定者になった時に気をつけたいポイントは?

建物を建てるため土地を借りる際には借地権設定契約を締結し、その際「借地人・借地権設定者」という用語が登場します。
それぞれの用語が持つ意味、どの立場の人を指しているのかといった基本的な知識など、借地人・借地権設定者の権利や関係性を踏まえて様々な角度から解説していきたいと思います。
記事監修者情報

株式会社グランクルー 代表取締役 加瀬 健史(カセ タケシ)
不動産業界歴20年以上・宅地建物取引士
不動産のプロでも敬遠しがちな借地権取引の実績100件以上。借地権の売買や更新料の相談・借地トラブルまで幅広く対応し借地取引に多くの知見を持つ。世田谷の借地権に特化したメディア「教えて世田谷不動産」運営。詳細はプロフィールをご覧ください。
借地人・借地権設定者とは
建物の所有を目的に土地を借りる際、土地の貸主と借主で借地権設定契約を締結します。
この時、借りる人を借地人や借地権者、貸す側の地主を借地権設定者や底地人と呼び、借地権者は土地を借りる対価として地主に毎月地代を支払います。
借りる人:借地人、借地権者
貸す人:借地権設定者、底地人
ちなみに借地借家法2条では
二 借地権者 借地権を有する者をいう。
三 借地権設定者 借地権者に対して借地権を設定している者をいう。
と定められています。
転借地権・転借地権者とは
借地人・借地権設定者と似た用語として「転借地権・転借地権者」があります。
これは借地権者が第三者に建物所有目的で土地を賃貸(転貸)する場合に使われる用語で、借地権者と第三者は転借地権設定契約という契約を結び、借地権者は「転貸借地権」を、第三者は土地使用権利の「転借権」を得ます。
図解すると以下のような状態です。

転貸借地権とは、借地人Bが地主Aの承諾を得て、借地人Bが土地をC(転借人)に賃貸し、Cが建物を所有している場合のBが有する土地権利を「転貸借地権」といいます。いわゆる、A土地をBがCに「又貸し」している状態にあります。ちなみに、Cの土地使用権利を「転借権」といいます。
借地借家法第2条では
四 転借地権 建物の所有を目的とする土地の賃借権で借地権者が設定しているものをいう。
五 転借地権者 転借地権を有する者をいう。
と定められています。
借地権ごとの借地人と借地権設定者の関係性

借地権は「①旧法借地権」「②普通借地権」「③定期借地権」に分類され、その種類によっても借地人と借地権設定者の関係性は変わってきます。
それぞれの特徴と、借地人と借地権設定者が持つ権利を見ていきましょう。
①旧法借地権
特徴
・堅固建物(鉄骨造、鉄筋コンクリート造)と非堅固な建物(木造)で契約期間が異なる
・借地権の消滅は「建物の老朽化や正当事由」
旧法借地権では借地上に建物があるかぎり、半永久的に借地権者は土地を利用できます。
一般的な修繕で補修可能ならば朽廃とは認められないため、借地権設定者は借地の明け渡しを要求するのが困難で、旧法借地権は借地人の権利が過剰に保護されていると言えます。
②普通借地権
普通借地権は旧法借地権に似ていますが、
・種別(木造・RC造)といった概念がなくなった
・土地の返還に必要な正当な事由の内容がある程度明確化された
・立ち退き料の支払いによって更新を拒否できるようになった
という点が大きく異なります。
旧法借地権は借地人の権利を保護するため借地人が比較的有利な内容でしたが、普通借地権では旧法で借地権設定者が土地を取り戻すことが困難であったことを受け、借地権設定者の権利を保護し土地を取り戻す方法が明確化されました。
借地法(旧法)の事由に加え、借地借家法では具体的に条文で示しています。
(借地契約の更新拒絶の要件)
第六条 前条の異議は、借地権設定者及び借地権者(転借地権者を含む。以下この条において同じ。)が土地の使用を必要とする事情のほか、借地に関する従前の経過及び土地の利用状況並びに借地権設定者が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、述べることができない。
ここで更新拒絶の要件としては以下のことが書かれています。
・借地権設定者が自分で土地を使いたいとき
・土地賃貸借契約時と実際の借地の利用状況を比較して明らかに変わっていると認められたとき
・借地権設定者が借地人に、土地の明渡しと引換えに財産上の給付(立退料の支払いなど)をしたとき
③定期借地権
定期借地権は、期間を定めて土地を貸し出す契約です。
「一般」「建物付き譲渡特約付き」「事業用」の3つの種類があります。
普通借地権は更新が原則となっているため借地人が有利となりますが、定期借地権では事前に契約期間を定め、かつ更新がないため、借地権設定人に有利な法律となります。

ここまでのまとめ
旧法借地権:借地人が有利、借地権設定者は土地を取り戻すのが困難
普通借地権:借地権設定者の権利を保護、土地を取り戻す方法を明確化
定期借地権:契約期間があり更新はないため、借地権設定人に有利
「①旧法借地権」「②普通借地権」「③定期借地権」それぞれ見てきましたが、借地権ごとに借地人と借地権設定者の権利の強さや有利性が異なり、主に焦点となるのは「借地人の場合:土地の賃貸契約の更新が可能かどうか」「借地権設定者の場合:土地を取り戻せるかどうか」にあるかと思います。
シーン別に見る借地人と借地権設定者の関係性
まず、借地権の特徴をまとめると下記になります。
- 土地の所有権は地主にある
- 借地人は地主に対して地代を収める
- 借地人は借地に建てた建物を無断で売却・増改築できない
- 原則、契約の中途解約は出来ない
- 契約期間満了後は更地にして地主に返還する
このような特徴があるため、借地人と借地権設定者との間にはどうしても様々な制約が発生してしまうデメリットも存在します。
では次にシチュエーション別の両者の関係性を見ていきましょう。
名義変更や増改築(建替え)の際には借地権設定者の承諾が必要
借地人が借地権を第三者へ譲渡する場合、借地権設定者の承諾を得る必要があります。
承諾を得るにあたっては、借地人から地主へ譲渡承諾料(名義書き換え料)を支払わなければなりません。

ちなみに譲渡承諾料の水準としては、借地権価格の10%程度が一つの目安となります。
増改築(建替え)の場合にも同様に承諾が必要で、承諾料も支払うのが一般的です。
金額は建物をどの程度建て替えるかによっても変動しますが、だいたいの相場は更地価格の3~5%程度となります。
地代の値上げ要求
土地の金額が上がることで、借地権設定者から地代の値上げを要求される場合があります。
契約書を確認し地代の値上げに関する記載があれば、その内容にしたがって地主との交渉・相談を行う必要があります。



借地人は地代の値上げ額が適正か判断するためにも、地主と交渉する前に現在の土地の価格を確認しておきましょう!
期間満了後は更地にして地主に返還する
基本的に、借地は更地にして返還を求められます。
さらにその場合の解体費用は借り主が負担することが一般的です。
ただし、建物に資産価値が残っている場合は、地主に建物を買い取ってもらうケースもあります。
借地権設定者が土地を取り戻すには立ち退き料が必要
借地主都合で借地からの立ち退きを求める場合には、借地人に立ち退き料を支払わなければなりません。
立ち退きを余儀なくされる借地人に対して一定の金銭的補償をしなければ、「正当な理由」を認めないとする多くの判例があり、立退料を支払った場合は「正当な理由」が認められやすくなります。
ここまでのまとめ
借地人:借地権設定者の許可が必要な場面が多い
借地権設定者:土地を取り戻すには立ち退き料が必要


ここまで借地契約中のシーン別に両者の関係を見てきましたが、借地人サイドで見ると、建物は自分のものでも土地は借地権設定者のものなので、様々な制約に縛られ借地権設定者の許可が必要な場面が多くあります。
行動を起こす際に交渉がスムーズに進むよう、借地権設定者とは日頃から適度なコミニュケーションを取り、良好な関係を築いておく必要があるでしょう。
まとめ
借地人・借地権設定者は契約した借地権の種類によって権限や関係性が変わってきます。
借地権のそれぞれの特徴とともに、借地人・借地権設定者が持つ権限や、制約による条件などを関連づけて覚えておくと良いでしょう。