【図解】区分地上権と法定地上権の違いを分かりやすく解説

  • 同じ地上権だけど何が違うの?
  • それぞれどんな時に設定する必要がある?
  • 設定するのにどれくらいの費用がかかる?

借地契約の際、他人の所有している土地を使用する目的で設定する地上権がありますが、地上権の中にも区分地上権、法定地上権など種類があります。

本記事では、区分地上権と法定地上権がどんな時に設定されるかなどの基本的な知識や特徴、両者の違いを分かりやすく解説していきます。

記事監修者情報

株式会社グランクルー 代表取締役 加瀬 健史カセ タケシ)
不動産業界歴20年以上・宅地建物取引士

不動産のプロでも敬遠しがちな借地権取引の実績100件以上。借地権の売買や更新料の相談・借地トラブルまで幅広く対応し借地取引に多くの知見を持つ。世田谷の借地権に特化したメディア「教えて世田谷不動産」運営。詳細はプロフィールをご覧ください。

そもそも地上権とは?

そもそも地上権とは?

「地上権」とは借地契約のひとつで建物などの工作物※1、竹木(竹や樹木)を所有するために、他人の土地を使用する権利のことです。

※1:工作物とは土地上に人工的に設置された物を指し、 建物や道路、 鉄道、電柱、塀などを含みます。

地上権を取得するには、地主と借り主が「地上権設定契約」という契約を締結する必要があります。

地上権を取得することで、土地の借り主はその土地に住宅を建てて居住、店舗を設置して営業、太陽光発電パネルを設置して売電するなど、多用途で使用することができます。

ただ、地上権は、その土地で建てられた建物や所有物を直接支配することができる非常に強力な借地契約のため、土地を所有している状態とほぼ変わらない状態になります。

そのため、土地を貸す側である地主側にとってはあまりメリットのない権利のため、居住用の戸建てなどに採用されることはほとんどありません。

区分地上権とは

区分地上権とは

区分地上権とは、地上や地下の空間の一部の利用を目的として、上下の範囲を定めて設定される権利のことです。

鉄軌道や地下鉄の駅、モノレール、高速道路、トンネル、などに地上権を設定する場合はこの区分地上権が用いられます。

区分地上権ができた経緯としては、他人の土地の地下に地下鉄を敷設したり、他人の土地の上空にモノレールの架線を設けるなど土地が立体的に活用されるようになったため、1966年の民法改正 (法律 93号) により新設されました。

実際に鉄道敷設など、何キロにも及ぶ土地を購入する必要があり、現実的でない膨大な費用がかかるため、そういった需要も加味されたものと思います。

地上権との違いとしては、他人の土地を使用する権利が「地上権」であるのに対し、他人の土地の上空や地下の空間を使用できる権利が「区分地上権」です。

また、地上権は工作物と竹木を所有するために他人の土地を使用できる権利ですが、区分地上権は工作物のみを所有するために他人の土地を使用する権利となります。

区分地上権の評価額

区分地上権の価額は、その区分地上権の目的となっている宅地の自用地としての価額に、区分地上権割合を乗じて計算した金額によって評価をします。

区分地上権の評価額=自用地評価額×区分地上権割合

※区分地上権割合・・その区分地上権の設定契約の内容に応じた土地利用制限率を基とした割合。 ちなみに、地下鉄等のずい道の所有を目的として設定した区分地上権を評価する場合における区分地上権の割合は、100分の30とすることができます。

《例》

・自用地評価額:2,000万円

・区分地上権の割合:40%

2,000万円×40%=800万円(区分地上権の評価額)

2,000万円−800万円=1,200万円(区分地上権の目的となっている土地の評価額)

法定地上権とは

法定地上権は抵当権が関係する場合に発生する権利です。

民法第388条では、抵当権の実行(いわゆる任意競売)により、土地と建物が別々の所有者に帰属することとなった際に、建物のために法定地上権が発生すると規定されています。

下記のような場合に法定地上権が設定されます。

法定地上権とは
  1. 土地と建物を所有する債権者Aが担保として建物のみ抵当に入れる
  2. お金が返せないため建物はそのまま債権者B(ローン会社)のものとなる
  3. 債権者B(ローン会社)から新所有者Cが競売で建物を買い取る
  4. 土地は債権者Aのものなので新所有者Cは建物を利用できない

こうなった場合、新所有者Cは建物の所有権は手に入っても土地を利用する権利は得られず、経済上不利益となるため、法律でCさんにその土地を利用できる権利が認められます。

これを法定地上権と言います。

また、法定地上権が成立するのは「土地上に建物があり、競売が行われて土地と建物の所有者が別々になった場合」です。

以下のような4つの要因を満たす必要があります。

  • 抵当権設定当時に土地上に建物が存在していたこと(未登記の建物も可)
  • 抵当権設定当時に土地と建物の所有者が同じであること
  • 土地、建物の一方または双方に抵当権が設定されていること
  • 土地または建物の競売がなされ土地と建物の所有者が別々になってしまったこと

法定地上権成立後の地代

ちなみに法定地上権成立後は、建物所有者が建物に住んだり賃貸に出したり活用するために土地所有者に地代を支払うことになります。

法律によって当然に認められるのは「地上権の設定」までのため、土地と建物の所有者間で地代決定の合意が必要になり、両者間で話し合って決めなければなりません。

自分たちで協議しても合意できなければ、「地代確定請求訴訟」という法定地上権の地代を決定するだけの裁判手続が行われる場合もあります。(裁判で決める場合、費用や数ヶ月以上の時間を要する)

<法定地上権の地代相場>

  • 固定資産税の3〜4倍
  • 更地評価額の1%

一般的な「借地権」よりも「法定地上権」の方が若干高めになる傾向があります。

また法定地上権が成立した場合、原則として30年以上、建物所有者に対して土地の明け渡しや建物の収去を請求できません。

30年経過後も、正当な事由が無い限り借地権は自動更新され、更新後の存続期間は20年、以降は10年ずつとなります。

地上権は強力な権利であり、正当な理由がなければ更新拒絶はできません。

例外として、明け渡し請求できる条件が4つありますが、これらの条件にあてはまらない限り、土地所有者は土地を利用できません。

立ち退き要求ができる正当な事由とは以下のような場合になります。

  • 借地人側に地代の滞納などの契約違反がある(目安は3ヶ月〜)
  • お互いに解除の合意がある場合
  • 建物がなくなった、または著しい老朽化が認められた場合
  • 建物の使用を必要とする事情があり、立ち退き料を支払う場合

区分地上権と法定地上権の違い

区分地上権は契約締結で設定、
法定地上権は競売により自動的に設定される

これまで解説してきた通り、区分地上権と法定地上権は地上権の一種ではありますが、内容は大きく異なります。

特に異なる部分としては成立の過程にあり、区分地上権は区分地上権設定契約を交わし契約締結(区分地上権を取得)になるのに対し、法定地上権は競売により自動的に地上権が成立するため、当事者同士の合意や契約締結などの手順もなく、意思とは無関係に成立する点です。

まとめ

区分地上権と法定地上権を要約すると下記になります。

区分地上権:工作物を所有するために、他人の土地の上空や地下の限られた範囲を使用する権利

法定地上権:抵当権が設定された土地や建物が不動産競売にかけられることにより、土地と建物の所有者が異なる状況が発生した場合において、建物の所有者に与えられる地上権

それぞれ地上権設定が必要となる場面が異なりますのでしっかり理解しておきましょう。

記事監修者情報

株式会社グランクルー 代表取締役 加瀬 健史カセ タケシ)
不動産業界歴20年以上・宅地建物取引士

不動産のプロでも敬遠しがちな借地権取引の実績100件以上。借地権の売買や更新料の相談・借地トラブルまで幅広く対応し借地取引に多くの知見を持つ。世田谷の借地権に特化したメディア「教えて世田谷不動産」運営。詳細はプロフィールをご覧ください。