借地権の返還時、更地にする必要はある?建物買取請求・返還時の流れを解説

  • 契約が終了したら、せっかく建てた家も取り壊さなければいけない?
  • 建物買取請求権ってどんな権利?どんな場合に使えるの?
  • 借地を返還するまでの流れが知りたい!

借地権とは、建物を建てるために土地の所有者から土地を借りる権利です。地主に対して、土地の使用料(地代)を支払うことで土地を使用する権利を得ることができます。

そして大半の借主は、契約期間中に住宅や事務所などを建てて、土地を活用します。しかし、契約終了が近づいても、借地上の建物はまだ使用可能であることが多く、「取り壊すのはもったいない」「解体費用は誰が負担するのか」などの問題が起こります。

そこで本記事では、借地の返還方法(更地にする必要があるのか否か)、建物買取請求権について、借地を返還するまでの流れまで解説します。

記事監修者情報

株式会社グランクルー 代表取締役 加瀬 健史カセ タケシ)
不動産業界歴20年以上・宅地建物取引士

不動産のプロでも敬遠しがちな借地権取引の実績100件以上。借地権の売買や更新料の相談・借地トラブルまで幅広く対応し借地取引に多くの知見を持つ。世田谷の借地権に特化したメディア「教えて世田谷不動産」運営。詳細はプロフィールをご覧ください。

【確認】現存する借地権は5種類

  • 旧法借地権 ※旧法(借地法)
  • 普通借地権
  • 一般定期借地権 
  • 建物譲渡特約付借地権 
  • 事業用定期借地権 

上記の通り、現存する借地権は5種類です。これらは❶旧法借地権、❷普通借地権、❸~❺定期借地権の3つに大別することができます。

1992年7月31日以前(借地借家法が施行される前)に契約した借地権については、今も変わらず旧法借地権が適用されているため、今でも旧法借地権が残っています。

借地権の種類によって、借地の返還方法は異なる

借地の返還方法は、契約している借地権の種類によって異なります。

そのため、まずは「自身が借りている土地にどの種類の借地権が適用されているのか」を把握する必要があります。

借地権の種類がわからない場合は、賃貸借契約書や登記簿を確認してみましょう。併せて当事者間(地主と借主)で契約内容について、認識のズレが無いかを確認しておくと余計なトラブルを回避できます。

借地の返還方法は2つ

借地契約が満了した際、地主への土地の返還方法は2つあります。

  • 建物を取り壊し、更地にして返還する
  • 建物をそのまま残し、地主に買い取ってもらう

建物を取り壊し、更地にして返還する

一つ目は借りている側(借主)が建物を壊して、更地の状態で土地を返還する方法です。この場合、建物の解体費用は借主自身が負担しなければなりません。

更地にして返還する方法の流れについては、後ほど詳しく説明します。

建物をそのまま残し、地主に買い取ってもらう

二つ目は建物をそのまま残し、地主に建物を買い取ってもらう方法です。この場合、借主は解体費用も掛からず、かつ地主に対して借地上の建物を買い取るよう請求できるため、建物の対価(金銭)も得ることができます。

※借主が地主に対して借地上の建物を買い取るよう請求できる権利のことを「建物買取請求権」と言います。

【参考】建物買取請求権とは?

建物買取請求権とは、借主が借地上の建物を時価で土地所有者(地主)に買い取るように請求できる権利です。※時価:その建物を売ろうとした時点で、売却できるであろう価格

「請求権」となっていますが、原則、地主に拒否権はありません。建物の所有権が借主から地主へ移転すると同時に、地主には支払い義務が発生します。

このように建物買取請求権は借主(借地人)に有利な権利である一方で、貸す側である地主は必ず建物を買い取らなければならず、地主にとっては不利なものです。

一般定期借地権・事業用定期借地権は更地にする必要がある

一般定期借地権と事業用定期借地権は、建物を壊して更地にする必要があります。

定期借地権として位置づけられる一般定期借地権と事業用定期借地権は、あらかじめ契約期間が定められており、かつ更新がないことが特徴です。※定期借地権について詳しく知りたい方は、【図解】借地借家法とは?種類と契約期間を解説をご覧ください。

一般定期借地権、事業用定期借地権の場合、契約期間中に新たに建物を再築したとしても、契約期間の延長は認められず、契約満了までに建物を壊して更地にしなければなりません。

旧法借地権・普通借地権・建物譲渡特約付定期借地権は更地にする必要がない

一方、旧法借地権・普通借地権・建物譲渡特約付定期借地権は、更地にする必要がありません。

さらに、借主は地主に対して借地上の建物を買い取るよう請求することができます。(=建物買取請求権)

旧法借地権・普通借地権は借主を過剰に保護するという特徴があり、更地にする必要がない上に、建物買取請求権が借主に与えられています。

更地にするための解体工事が必要ないため、借主が契約期間満了までにやることは、地主への建物買取請求とその借地(建物)から自身が出ていくのみです。

※注意 途中解約の場合、建物買取請求権を行使できない

原則、旧法借地権・普通借地権・建物譲渡特約付定期借地権では、建物買取請求権(借地上の建物を時価で買い取るよう請求する権利)を行使できますが、例外として、契約が満了する前に途中解約した場合は建物買取請求権を行使することができません。

つまり、借地権の契約期間が満了した場合のみ、建物買取請求権を行使できます。

(更地にする場合)借地を返還するまでの流れ

では、更地にして返還する必要がある場合(一般定期借地権・事業用定期借地権の場合)、借主はどのような流れで借地を返還したら良いのでしょうか。

借地を返還するまでの大まかな流れは以下の通りです。

地主(貸主)と話し合い

地主と賃貸借契約書を確認し、借地権の種類・借地の引き渡し方法や日時・解体工事について話し合いを行いましょう。

特に解体工事は騒音や振動などで、周辺住民に迷惑をかけることがあるため、トラブルを回避するためにも地主と借主で同じ認識を持っておくことが重要です。

解体業者の選定・解体工事

地主との話し合いがまとまったら、解体業者を選定します。解体業者によって費用が異なったり、中には悪徳業者もいるため、必ず複数の業者に査定依頼をすることをおすすめします。

業者が決まったら、業者と協力をして周辺住民への挨拶、告知などを行いましょう。

建物の滅失登記をする ※建物の解体後1か月以内

建物の解体が終わったら、解体後1か月以内に「建物滅失登記(建物が無くなったことを登記する)」を行わなければなりません。※不動産登記法という法律で定められています。

建物滅失登記を行わないと、固定資産税などの税金が意味なく課されてしまいます。

詳しい登記申請手続きは法務局HP:不動産登記申請手続きをご確認ください。

更地を返還する

以上1~3の全てが終わったら、地主に更地を返還して、終了です。

よくある質問

地主は建物買取請求権を拒否することができるのか?

原則、地主は建物買取請求権を拒否できません。

借主が更地にするために掛かった建物の解体費用は地主に請求できるのか?

できません。借主には、契約満了時に土地を更地にして返還する義務(原状回復義務)があるため、借主負担で建物の取り壊しを行う必要があります。

まとめ

  • 土地の返還方法は、契約している借地権の種類によって異なる
    • 借地権は5種類(旧法借地権、普通借地権、一般定期借地権、事業用定期借地権、建物譲渡特約付定期借地権)
  • 一般定期借地権、事業用定期借地権は建物を取り壊し、更地にする必要がある
  • 旧法借地権、普通借地権、建物譲渡特約付定期借地権は更地にする必要がなく、建物買取請求権を行使できる
  • 建物を取り壊したら、1か月以内に「建物滅失登記」をしなければならない

記事監修者情報

株式会社グランクルー 代表取締役 加瀬 健史カセ タケシ)
不動産業界歴20年以上・宅地建物取引士

不動産のプロでも敬遠しがちな借地権取引の実績100件以上。借地権の売買や更新料の相談・借地トラブルまで幅広く対応し借地取引に多くの知見を持つ。世田谷の借地権に特化したメディア「教えて世田谷不動産」運営。詳細はプロフィールをご覧ください。